耳鼻咽喉科・頭頚部外科

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県立広島病院における中耳手術について

はじめに

平成13年4月に筆者が県立広島病院耳鼻いんこう科・頭頚部外科に赴任して以来,「中耳手術」を一つのテーマとして取り組んできた。昨年12月までの4年9ヶ月で中耳手術の件数は700件を超え,中・四国地区では最も多い症例数となっている。今回,このページをお借りして,当科で行われている中耳手術の現況について報告させていただくこととする。

手術症例の内訳

4年9ヶ月間の中耳手術総件数は702件である。最も多いのが真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術で294件(段階手術での同一症例を含む),次いで慢性化膿性中耳炎に対する鼓室形成術が182件,以下慢性化膿性中耳炎や外傷性鼓膜穿孔,チュービング後鼓膜穿孔などに対しての接着法による鼓膜形成術96件,術後耳での鼓室形成術83件,耳硬化症に対してのアブミ骨手術15件などとなっている(表)。その他の中には外リンパ漏による反復性髄膜炎に対しての内耳充填術,内耳窓閉鎖術,中耳腫瘍摘出術などがある(なお,今回の統計には顔面神経減荷術は含めていない)。

鼓膜形成術か鼓室形成術か?

慢性化膿性中耳炎や外傷性鼓膜穿孔,チュービング後鼓膜穿孔に対しては鼓膜形成術と鼓室形成術の二つの術式がある。鼓膜形成術は耳後部を約1cm切開し移植組織を採取し,耳内より鼓膜穿孔縁を新鮮化し,採取した移植片で鼓膜裏面から接着,閉鎖する方法である。手術侵襲が少ないため日帰り手術も可能であるが,鼓室形成術に比べ鼓膜穿孔閉鎖率にやや難がある。このため当科では以下のごとく鼓膜形成術の適応を厳格に行い手術成績の向上を図っている。

鼓膜形成術(接着法)の適応

  • パッチテスト良好であること
  • 鼓膜輪が残存していること
  • ツチ骨柄が露出していないこと
  • 穿孔部が顕微鏡下で明視できること
  • 耳鏡内での手術操作が可能な外耳道の広さがあること

以上に該当しない症例は従来通りの鼓室形成術とするため約2週間の入院期間を必要とする。鼓膜形成術での鼓膜穿孔閉鎖は96耳中90耳(93.8%)で成功となっているが,鼓室形成術の行われた慢性化膿性中耳炎,外傷性鼓膜穿孔例などでは鼓膜穿孔閉鎖の成功は195耳中192耳(98.5%)であり,鼓膜穿孔の閉鎖という点からは鼓室形成術のほうが良いといえる。

一方で聴力改善の成功率を見ると鼓膜形成術では鼓膜穿孔が閉鎖した全例で聴力改善が得られているが,鼓室形成術を行った例では術後聴力の判定できた123耳のうち98耳(Ⅰ型85.4%,Ⅲ型変法57.7%,計79.7%)の成功に留まっている(日本耳科学会2000年聴力成績判定基準:気導・骨導差15dB以内,聴力改善15dB以上,聴力レベル30dB以内のいずれかを満たすものを成功例とする)。これはパッチテスト不良で耳小骨連鎖や耳小骨の可動性に問題がある症例が鼓室形成術の適応となっているためと考えられる。

真珠腫性中耳炎,なぜ段階手術か?

真珠腫性中耳炎は聴力低下,めまい,顔面神経麻痺や頭蓋内合併症を生じる可能性のある疾患である。このため真珠腫性中耳炎の手術においては真珠腫上皮の完全除去が第一の目標となる。手術において真珠腫上皮が残存するといわゆる遺残性再発となり,再び種々の合併症の危険性が生じる。また,炎症の強い中耳腔に伝音連鎖の再建を行った場合には中耳腔内の換気ルートが阻害され,再形成性真珠腫を生じやすくなる。このため,多くの施設では真珠腫性中耳炎に対しては段階手術が行われている。初回手術で真珠腫の摘出を行い,6ヶ月から1年後に計画的に第2回手術を行い,中耳腔の安定化した状態で遺残真珠腫の確認,摘出と伝音連鎖再建による聴力改善を図る。図のように初回手術前にはまったく含気の認められない中耳腔が第2回手術前に正常化することが理想であり,このような状態となれば聴力改善も容易となる。

一方で段階手術は2回の入院(初回:約2週間,第2回:約10日間)を要することで患者側の負担になることには違いない。このため当科では以下の3点の基準を満たす症例では一期的に伝音連鎖の再建まで行っている。この基準に該当するものは真珠腫性中耳炎新鮮例の約三分の一である。

一期的に手術で終了する基準

  • 手術時に真珠腫上皮の完全摘出が確信できること
  • 中・下鼓室の粘膜が正常であること(耳管機能が正常であること)
  • 真珠腫より末梢側の乳突蜂巣粘膜が正常であること(粘膜換気が保たれていること)

真珠腫性中耳炎の問題

真珠腫性中耳炎では耳小骨が消失している例や残存耳小骨の可動性に問題のある例が多く,聴力改善という点では慢性化膿性中耳炎での手術には及ばないのが実情である。前述の耳科学会の判定基準ではⅠ型手術で81.8%,Ⅲ型変法手術67.0%(一期的手術:58.6%,段階手術:74.2%),Ⅳ型変法手術(一期的手術:50.0%,段階手術:47.4%)の成功率に留まっており,さらなる伝音連鎖再建の工夫が必要と考えている。

もう一つの問題点として,再発の問題が挙げられる。遺残性再発や再形成再発のため3回目以降の手術が必要となる例が存在することも事実である。遺残真珠腫上皮を標的としての遺伝子治療なども研究されているが実用には未だ遠く,手術手技の向上のみが現状での解決手段である。

まとめ

当科における中耳手術の現況を報告した。慢性中耳炎の治療目標は永続的な耳漏停止と聴力改善,さらに真珠腫性中耳炎においては合併症の回避である。これらの目標を100%達成するために今後も研鑽する所存であり,諸先生方の引き続いてのご指導をお願いいたします。

表 中耳手術の内訳(平成13年4月~平成17年12月)
区 分 人 数 構成比
真珠腫性中耳炎 294人 41.9%
慢性化膿性中耳炎 182人 25.9%
慢性化膿性中耳炎,他(接着法)   96人 13.7%
中耳炎術後症 84人 12.0%
耳硬化症 15人 2.1%
中耳・鼓膜外傷 13人 1.8%
中耳奇形 9人 1.3%
その他 9人 1.3%
総 計
702人 100%
図 手術による中耳含気腔の形成

術前

術後

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